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「山鳩」(1957)

30点30

あらすじ

浅間の草深い高原。電車線路が細々と走って、その一駅に多木弁造が駅長の落葉松沢がある他に従業員とてなく、一日に何本も往復しない電車のあい間に畑作りや家畜の世話で、停年近い身をのんびりと独り暮しをしていた。ところが、ある霧の夜、老駅長がホームに戻ってくるとベンチに若い女が着物を取り乱したまま寝そべっていた。−−女は鶴江といった。峠の向うの町で酌婦をしていたが逃げて来たのだという。多木は母にも棄てられ狐独の影強いこの女を泊めてやった。いつの間にか、彼女はここに住みついた。ともすれば挫けそうになる彼女の気持を労ってやりながら、多木自身も今までとは違った気持の張りを感じていた。妻を亡くしてやもめ暮しの彼を若返ったと人々は噂した。ある日、偶然鶴江が奉公していた料理店の一団がこの駅に降り立って彼女を見つけた。多木はコツコツ貯めた貯金から彼女の借金を返して、彼女を自由の身にしてやった。その日は彼女の誕生日だった。夜、多木は彼女と祝膳を囲んで楽しそうだった。そして、彼女が村の青年や温泉客と関係したという噂を彼女に質した。“娼婦の体は心のいうことを聞けないようになってしまった”という彼女の告白に、彼の心には忽然と父親の愛情より強い愛情がこみ上げて来た。−−浅間に夏が来た。あと二、三日で十五年間無事故の表彰状をもらえるという日、運輸省の視察団が試運転の電車をみるため落葉松沢に立寄った。忙しさに追われる多木の心に一つの心配がつきまとっていた。それは結婚十カ月目という早さで生れて来る子供のことだった。果して本当に自分の子だろうか、鶴江の寝ている方をみながらこの老駅長は悩んだ。やがて、試運転の電車の通過を告げるベルが嶋って、彼はホームに駈け上りタブレットの操作を終った瞬間、「男の子だッ……お前にそっくりだぞッ」という叫び声が聞こえてきた。転轍器の操作を忘れて、駈け出した彼の背後で、異様な音響をたてて電車が脱線した。表彰状への期待は一瞬にして消え去ったがしかし、この老駅長の胸には自分の子供を得たという新しい喜びが湧き起って来た。それ以来、落葉松沢の駅には、赤ん坊を背負った老駅長の姿がみられるようになった。 【キネマ旬報データベースより】
製作年 1957年
製作国 日本
上映時間 100
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