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「春の夢〈1960年〉」(1960)

70点70
社員たちのスト突入を目前にした製薬会社社長・奥平。ただでさえ頭の痛いこの時期に、焼き芋屋のじいさんが、屋敷の居間で脳溢血で倒れてしまった。病気が病気だけに、むやみに動かすこともできず、じいさんを奥平の屋敷で寝かせることになるのだが……。木下惠介が、自らの脚本を映画化した風刺喜劇。

あらすじ

東京のとある屋敷町、渥美の爺さんのひく石焼き芋の車は今日も坂を上って行く。魚政の行男がとびだして爺さんに得意先を紹介してくれた。客は坂の上の奥平家、その家の二人の若い女中、君子と梅子だった。豪壮な邸宅だった。掃除中の梅子が爺さんを無理矢理引っぱり上げ、二人で重いソファを動かしていると、表でクラクションが鳴った。帰って来たのはこの家の主人、そして目下スト突入寸前の暗雲をいただく文明製薬社長奥平庄兵衛とオールドミスの秘書矢杉和子である。勿論庄兵衛氏の頭は割れるように痛い。客間に足を入れた矢杉がキャッと叫んだ。帰った筈の渥美の爺さんが、客間の真中に脳溢血を起して倒れていたのである。……お金持の邸宅で焼芋屋の爺さんが倒れる……まことに皮肉なおはなしになった。怒ったのは庄兵衛氏である。誕生日も近いというのに、客間を焼芋屋の爺さんごときに占拠されることの不当さ、加うるに同家の主治医花村と矢杉が人道主義を楯に敢然と反抗してゆずらぬこと、スト対策に集まった重役らが、毛生え薬会社の重役であるというのに揃いも揃って禿頭であること……よいことは何ひとつない。騒ぎのさ中帰って来たのはこの家の実権者の祖母と女中頭の八重である。初恋を断念してこの奥平家に嫁いで五十年、婿養子の庄兵衛はかいしょうなく、三人の孫といえば博愛主義と自称して男をわたり歩く長女の多美子、貧乏画家に夢中で縁談に耳もかそうともしない次女の千鶴子、現代病にかかって、すべてに虚偽を感じては嘆く長男の守……一人として彼女の意にかなう者はない。倒れた爺さんが自分と同い年であると聞いた時、彼女の心の底の方で何かが動いた。冷く嫌われものの八重、彼女が妻を失った庄兵衛の永い間のかくれた愛人であったとは……。奥平家は日毎に騒然として来た。爺さんのアパートの住人が見舞いと称し、そして実は爺さんのしがないヘソクリを狙って、日参するのである。孤児栄一が一人まごころを尽した。なにかと、この二人をかばうのは千鶴子、彼女だけが奥平家では人間らしい人間なのかもしれない。爺さんをめぐるヒューマニズムは一つの恋を生んだ。やもめの花沢医師と矢杉である。そしてこの恋はさらにもう一つの恋を励ました。千鶴子が敢然貧乏画家との愛を再宣言したのである。会社はストに突入した。矢杉もストを宣言、爺さんの看護婦になった。もう庄兵衛の頭はくもの巣のようである。デモ隊にそなえて奥平邸にはヤクザの群が住み込んだ。そして彼らの不始末でボヤが起きた。梅子には行男、そして君子には乾物屋のヨッちゃんが早速忠義顔で飛んで来た。もはやこの騒然たる奥平邸は病人のいるべき場所ではなかった。花村医師は病人をアパートに移すことを決意した。その時、血圧の上った祖母を訪ねたのは千鶴子の恋人の貧乏画家江間だった。祖母の送った手切金をたたき返し、プライドを守って敢然と引き上げたのである。千鶴子の恋は許された。インターナショナルの歌声が通る道を千鶴子は江間のあとを追った。祖母は初めて客間に足を入れた。彼女が涙ながらに見送る石焼き芋の爺さん、彼こそは彼女の初恋の人、渥美信一郎だったのである。担架につきそう花村医師と矢杉和子はもう夫婦のようであった。赤旗があふれ、デモ隊は邸に殺到した。庄兵衛の怒号、デモ隊と警官の乱戦のさ中、祖母は静かに倒れた。祖母の手から「ロメオとジュリエット」が落ちた。 【キネマ旬報データベースより】
製作年 1960年
製作国 日本
配給 松竹大船
上映時間 103
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