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「杏っ子」(1958)

85点85
室生犀星の小説を翻案した成瀬巳喜男監督の名作。高名な作家の娘が文学青年と結婚するが、夫が自分の才能を信じて売れない小説を書き続けるため生活が困窮し、夫婦仲も冷めていくという物語を成瀬独特の淡々とした作風で描いている。暗く起伏に乏しい内容でありながら、その映画的展開は圧倒的に素晴らしい。名声は天地の開きがありながら、同じ志を抱く作家としてのライバル意識を燃やす杏子の父と夫が、庭に隔てた障子越しに執筆中の互いの姿を気にし合うシーンなど、さりげないドラマの肌合いを捉える成瀬演出の白眉である。物語とは直接関係のない細部の卓抜な描写も印象的。

あらすじ

戦後二年、ある高原の避暑地に疎開以来、作家の平山平四郎は妻のりえ子と、娘の杏子それに息子の平之助の四人で、不自由な生活を送っていた。ラジオ修理業をやりながら小説を書いている漆山亮吉は、杏子一家のためになにかと援助した。亮吉は杏子が好きだが、有名作家の平四郎に気兼ねしていいだせなかった。伊島をはじめ何人かの男と見合をした杏子は、結局気心のしれた亮吉と結婚して、本郷に新居をもった。二年の歳月は流れた。小説家をあこがれ、売れもしない原稿を書く亮吉は、毎日酒をのみ、いっこうに定職につこうとしない。杏子はそのために、嫁入り道具を売ったりして家計のヤリクリをした。平四郎は親子でも仕事のことは別だ、といいながら、知合いの出版社に紹介してやったが、やはり未熟なためにはねつけられた。みかねた平四郎は、自分の家の離れを杏子夫婦に提供した。劣等感に苦しむ亮吉は、毎日のように杏子にあたり、争いが絶えなかった。一方、平之助はちゃっかり屋のりさ子と結婚した。ともすると、平之助は、りさ子の尻にしかれがちであった。平四郎はこれも一つの夫婦の生き方として黙視した。日がたつにつれ、亮吉の劣等感は反感に変っていった。平四郎の弟子の菅が平山家を訪れたとき、酒の席で口論となり、揚句の果てに、亮吉は平四郎の丹精して作った庭を目茶苦茶にしてしまった。そのために、杏子たちは平四郎の家を出た。二人の間にはもう一片の愛情すらなかった。平四郎はそれでも別れるといわない杏子を痛ましげにみつめるのだった。その後も、杏子は亮吉のひどい仕打ちに、実家に戻ることも度々あったが、いつも二、三日してはまた亮吉のことを心配して帰っていった。しかし、亮吉は相変らずの酒びたりの毎日だった。平四郎は今日も、亮吉のもとに帰る杏子の後姿を、黙ってみつめるのだった。 【キネマ旬報データベースより】
製作年 1958年
製作国 日本
配給 東宝
上映時間 110
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