「北村透谷 わが冬の歌」(1977)

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日清戦争へとひた走る世の中に異和を唱えながら、自殺せざるをえなかった天才詩人、北村透谷の苦悩を鮮烈に描き出した作品。時代を明治26年末から27年初夏に限定、その半年間に透谷家に訪れる人々との激しいディスカッションを通じて、“明治の子“透谷の人間像が浮かび上がる。みなみらんぼうがそんな透谷を演じる。

あらすじ

欠勤中の透谷にかわって、妻・美那は明治女学校を訪れた。校門で美那は透谷の教え子、斉藤冬子と出会うが、冬子の美しさが妙に心に残るのであった。美那は事務官から、透谷が既に退職届を出しているのを知らされ、悪い予感に、家路を急いだ。そのころ透谷は咽喉に刃物を突きたて、命を絶とうとするが、駆けつけた美那に発見され、事は未遂に終わった。透谷の自殺未遂を伝え聞いた友人たちが北村家を訪れる。星野天知が、透谷と斉藤冬子が恋愛関係にあり、それが自殺の原因ではないかという。樋口一葉が訪れ末座に加わった。新聞紙上で透谷と激しい文学論争を続けていた山路愛山は、自分が透谷を自殺に追いやったのではないかと悩んでいた。また、大矢蒼海は政治から去った透谷を裏切者として、今でも拘っていることなどを話す。そこへ、かつて美那の婚約者であった平野友輔と、透谷が合流する。静寂が続く中で、透谷が語り始めた。透谷が参加していた民権運動が圧殺されていたころ、政府の討代隊に追われた透谷は、遊廓に逃げこみ、一人の女郎に助けられた。その女は透谷に化粧をさせ、女郎の着物を着せて店先に座らせたのである。討伐隊は変装を見抜けず立去った。その夜、透谷は“蝶”という名の、その女を抱いた。はじめての性の体験であった。蝶にはざくろの刺青があった。彼女と結ばれたいと透谷は思い、女がとめるのも聞かずに刺青を刻み込んだ。その後、蝶は強盗に絞殺されてしまった。透谷は蝶の思い出を胸に、頭を剃り、漂泊の旅に出たのであった。刺青を見せてくれるように言われ透谷が着衣をぬぎすてると、腕、胸、背に浮かぶざくろの刺青。それを見て公歴が富井松子と透谷の関係を問いつめる。姉をおもう公歴と透谷は激しい論争となる。傷つけられ、美那と透谷は沈黙のまま向い合った。その時、友輔は美那を幸せにしてやってくれと言い残すと去っていく。宴は終わった。傍若無人に周囲を傷つけてみたものの、透谷は空しかった。結局痛手は己れに返ってくる。荒々しく書斎にかけこんだ透谷は、窓の外で燃える炎の中に、原稿や書籍など、手あたり次第に技げすてた。その日から透谷は、死への道をまっしぐらに疾走する。藤村の友情も、美那の必死の看病も、透谷の目にはとまらなかった。世間は日清開戦の日を持ちこがれ、透谷は自分をとりまいていたかつてのきずなの全てが、幻にすぎなかったことを知る。夢と現実のはざまで、透谷はさまよう。世界は崩れ落ち、その中で透谷が一人震えていた。一緒に死んでくれと、透谷は美那に言う。だが美那は夫の心が既に、彼女の知ることのできない世界に迷い込んでしまっていることに気付いていた。美那は身替りに死ぬのはいやだと夫の心をつきはなした。明治二十七年、五月十六日。満月の夜に、厚化粧をして、女の着物を着た透谷が、木に吊され、くびれ死んで揺れていた。 【キネマ旬報データベースより】
製作年 1977年
製作国 日本
配給 ATG=三映社
上映時間 103
カテゴリ 人間ドラマ
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